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第7話 生きるために身体を売る義姉と金の謎

last update Date de publication: 2025-11-21 09:30:04

 二人だって、頼る場所が無かったのだ。そうして、遺産や彼ら親族の縁切りに寄越した金でヨハンの提案により、養鶏業を始めたが……リンダはそれがどうにも性に合わなかったらしく、彼女は一人で街に出た。

 そうして僅わずか十六歳で酒場で働きつつ、娼婦になったのだ。

 普通、好き好んで娼婦になる女などいない。

 なので、義姉だって生きるためにそうしたのだと分かる。仕方なしに身体を売るに違わない。こんな身の上だ。雇う側だって厄介に思うに違わない。

 それは、養鶏業を営む前、仕事を探していたヨハンを見て理解していた。

 賃金の安い葡萄畑の下働きか、どぶさらいなど。肉体労働以外に仕事なんてろくに無かったのだから。

『──このあばずれが!』

 父がよく母に浴びせていた言葉をイルゼは反芻はんすうした。この歳にもなれば、〝あばずれ〟の意味は理解できる。

 あの頃、母も身体を売って生活を支えていたのだとイルゼはどことなく理解していた。何せ、あの頃の母は昼過ぎに家を出て、夜遅くに帰ってきたからだ。

 夜中になると、毎度父母は悶着を起こしていた。つまり、身体を売って稼いだ金が少ないからと、父がどやしていたのだろうと自然と結び付く。

(義姉ねえさんも義姉ねえさんで不幸に違わない……こんなことをするのだって、生きるために違わない。私、きっと酷いことを言ったに違いないわ)

 反芻はんすうするほどに、イルゼは自分の犯した罪の重さを思い知った。

 今までの苦渋を思い出すと、謝る気になんてなれやしないが、倫理に反した行動を起こしたことだけは謝るべきだろう。

 しかし、稼ぎが良いのに、なぜに義姉は〝家族費〟など称してこちらにたかるのか。借金でも背負っているのか。と、今更のような疑問がよぎる。

 単なる嫌がらせな気がしてならない部分もあるが、普通に考えて、金は持っているだろうし、家族費なんて要らないだろう。

 態々わざわざ嫌いな義妹の所に来るのだっておかしい。

 ただの憂さ晴らしか。しかし、なぜに……。

 そんなことを考えている矢先に──喧噪が近づいて来ることが分かった。間違いなく、自警団の男たちだろう。

「イルゼ・ジルヒャーはいるか!」

 がなるような声が響き、イルゼはすぐに立ち上がるが、ヨハンはすぐにイルゼの手を掴む。

「イルゼは素直に話せ。必要以上に語らなくて良い。これから詰め所には行くのだろうが最終的には俺が話をつける。自警団も馬鹿じゃない。被害者の話ならば信じるし聞くだろう」

 ──心配するな。

 ヨハンに強くそう示唆されて、イルゼは黙って頷いた。

 ***

 そうして幾許いくばくか。

 捕縛されたイルゼはヨハンとともに馬車に揺られ、自警団の詰め所に向かっていた。

 車窓から外を見れば、通りを歩く人たちが、立ち止まってこちらを眺めている。もはや〝訳あり兄弟〟と領地中に知れているもので、好奇の視線を向けているのだろう。否、街に向かう最中にリンダが言いふらした可能性も無きにしもあらず。イルゼは深いため息をこぼして少しばかり俯いた。

 正面には、赤ら顔の自警団副団長が腕を組んでイルゼを睨み据えている。

 恰幅も良く強面な所為か非常に迫力がある。それもどこか頑固そうに見えてしまうのは、彼が硬く唇を引き結んでいる所為もあるだろう。

「ああ、可哀想にイルゼ。か細い腕に縄が食い込んで……。副団長さん。これどうにかならないものです?」

 隣に座したヨハンはイルゼの手首を撫でつつ副団長に言うが、彼が否と首を横に振る。

「被害者がこうも加害者を庇うのは珍しい。お前の妹が大袈裟に言っている気がしてならん。お前の言う通り、随分と派手な姉妹喧嘩に過ぎないと俺も思う」

 ──拘束は解いても構わんと思うが、形式ってもんがある。

 なんて、地鳴りのような低い声で付け添えると、彼は再び硬そうな唇を引き結ぶ。

 本当に頑固そうだ。しかし、柔軟性がある分かり──この男、存外話が分かるような気もしてきた。

 ヨハンも同じように思ったのだろう。顔を見合わせると、片方の眉毛を上げた。

 まるで「安心しな、どうにかなるさ」とでも言いたげで……。

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  • 罪の鎖に繋がれた没落令嬢は猟奇領主の執愛に溺れる~ローレライの夜想曲~   第90話 不器用でいびつな私たち

     義姉からまさかそんなことを言われるなんて思いもしなかった。  だが、どう返事したら良いか分からない。今更という部分もあるし、こちらだって理解が追いつかない。当然のように、イルゼは返信を書くことなんてできなかった。 しかし、この事態にイルゼは余計に形見の狭さを感じ始めていた。  先行きだって不安でしかない。  義兄と営んできた養鶏業も廃業だ。これから、いよいよ一人でどう生きていけば良いか考えると、焦燥が募るものだった。  もし、働くにしても領地を出て行くべきだろう。  この領地で義兄に監禁され、厭らしいことをされてきた殺人犯の娘という最悪な印象を持たれてしまうのはどことなく想像できたのだから……。 だが、これに対してヘルゲは「生きやすいに越したことはないでしょう」なんてやんわりと微笑んだ。「うちの旦那様もそうだしイルゼさんもね、〝不器用〟なんすよ。似た者同士だなって思います。たとえ本人は腑に落ちないとしても、周囲の評価だ待遇だの、そのまま受け入れたって悪くないと思いますよ?」 ──自分に厳しすぎなんすよ。  なんて、ザシャにも言われて、イルゼは目から鱗が落ちるようだった。  確かに、他人とそこまで関わってこなかったからこそ、分からなかったことだ。  厚意を受け入れること、甘えること。これまでの自分はなかったものだ。  この城に来て、人と触れ合い、学んだことは多すぎる。  それに、こんな風に言ってくれるのは心からありがたい。イルゼは、使用人たちに深く礼を言った。 そしてヘルゲは「今だからもう言えますが」……と、更なる暴露をイルゼにした。 何やらヘルゲはリンダと既に形式上で婚姻関係を結んでいるらしい。  娼婦の義姉を買う──つまりは、結婚していたということらしい。  だがその実態は……〝ヘルゲとザシャ双方の妻〟という扱いだそう。「法的に認められてませんが、兄弟共有の妻ということになりました。僕ら性格似てないですが、好みは似ていて。もう二夫一妻で良いのでは? ってことになりまして」 借金を肩代わりした他、買われた

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